コラム:なぜドル円だけが3桁なのか=佐々木融氏 | Article [AMP] | Reuters

もっとも、健全財政路線にシフトすることで、高橋蔵相は軍部と対立。1936年2月26日に暗殺された(二・二六事件)。その後、公債漸減方針が撤回され、「対満州政策の遂行」「国防の充実」「農村の経済更生」「税制大改革」の名のもとに国債が野放図に発行され、戦争に突入していったことは歴史が示すとおりだ(国債発行額は1932年度の7.7億円から1945年度には334億円へと13年間で40倍以上に膨れ上がった)。

そして、戦後の日本は復興資金を日銀信用により賄ったことなどにより、ハイパーインフレに悩まされることになる。1944年から1951年までの8年間の物価上昇率は年率平均プラス100%にも達した。こうしたハイパーインフレを受けて、ドル円は円安方向へと大幅に修正されたのである。

ちなみに、第2次世界大戦が勃発した1939年当時は、1ドル=4.25円程度だったが、1945年8月に戦争が終結すると、軍用交換相場として1ドル=15円に設定され、1947年3月にはこれが1ドル=50円に、さらに1948年7月には270円に引き上げられた。そして、1949年4月に、連合国軍総司令部(GHQ)が発表したレート(一般に利用される相場)は、1ドル=360円となった。

1ドル=4.25円だったドル円は、たった10年間で360円までの大幅な円安になったということだ。これが先進国通貨の中で、ドル円だけが3桁になっている理由である。

要するに、日本という国は、たかだか80年ほど前に現在と同じような政策を採用しており、その結果が現代の為替相場に残っているのだ。4.25円が360円になるのは、120円が10000円(1万円)になるのと同じマグニチュードである。

後世の為替ストラテジストが、なぜドル円だけが5桁なのかを説明する時のキーワードは、「アベノミクス」「量的・質的金融緩和(QQE)」なのだろうか。

 

 

 

コラム:中長期は円高・超長期は円安、歴史は繰り返すのか=佐々木融氏 - ロイター

 

<1ドル=1円で始まった外為レート>

ここまでは、今後数年程度の長期的な円相場見通しだが、ここからは5年以上先の超長期的な円相場に関して考えてみたい。

本コラムでも何度か説明してきたが、ドル/円JPY=EBS相場は1ドル=360円から始まっているのではない。日本の通貨単位が『円』となった1871年、今から149年前のドル/円相場は1ドル=1円だった。その後、1929年から始まった世界大恐慌により、日本は各国同様大幅なデフレに陥った。そして、デフレから抜け出すために、当時の高橋是清蔵相と日銀は、1932年に国債の日銀による直接引き受けを開始し、財政支出を拡張した。この時、1ドル=4円台まで円安が進んだ。

積極的な財政拡張の効果もあって、日本はデフレから脱却できたため、高橋蔵相は日銀による国債引き受けを停止し、財政健全化を行おうとした。しかし、それに不満を持った軍部が高橋蔵相を暗殺。その後、日銀による国債引き受け・野放図な財政拡張は止まらず、やがて日本は戦争に突入した。さらに財政支出を拡張していったため、円の価値は暴落し、ハイパーインフレとなった。

日米開戦直前の1939年には1ドル=4.25円だった。その後、米国と戦争している間は当然、ドル/円相場が存在せず、終戦後には軍用交換相場として復活した。

そして、終戦から4年ほど経過した1949年、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)がそれまでの日米インフレ率格差等を用いて算出して、一般に利用するためのドル/円相場として発表したのが1ドルドル=360円だった。

 

<日銀の国債買入に出口はあるか>

今年の世界経済が大恐慌以来のマイナス成長となることが予想される中、大恐慌以降の円相場がどのようにして大幅に下落したかについて認識しておくことは重要だろう。

歴史は多少、形を変えながらも繰り返されることが多い。1940年に開催される予定だった東京オリンピックが中止となったことも、事情は全く異なるが現在と奇妙な共通点がある。

当時の経験から得られる教訓としては、新型コロナウイルス感染拡大による経済的なダメージから抜け出すため、中銀が財政をファイナンスし、歳出を拡大するということ自体が問題なのではなく、経済が正常化した時にそれを止められるのか、出口から出られるのかという点が重要という事だろう。

筆者はまだ、そこまでは予想していないが、今後日本経済の落ち込みが激しく、デフレが進めば進むほど、大幅な円高となればなるほど、金融政策を使い果たした日本は、財政政策に頼らざるを得なくなる。そして、財政赤字の膨張を日銀がファイナンスすることに、もはや世論は抵抗しないだろう。

ここで問題になるのは、その後状況が改善し、デフレ圧力が弱まり始めた時、それまでの拡張的な財政政策、日銀による財政ファイナンスを止められるかどうか(デフレ圧力が弱まる中、日銀が国債購入を止めれば長期金利は大幅に上昇することになる)が、長期的な円相場にとってカギとなる。

約80年前の経験同様、止められなければ歴史は繰り返し、そこから大幅な円の価値下落が始まるだろう。

長期的には円高トレンドを予想するが、歴史は繰り返される可能性が高いと考え、超長期的には大幅な円安が進むと予想する。